介護業界でIT技術が活用されれば、業界の人手不足も解消されるんじゃ?
そんな期待は多くの方が抱いておられると思います。
でも、ちょっと待ってください!
ITを介護現場に導入する上での課題は多く潜んでいます。
導入以前の課題も存在します。
そのような課題についてこの記事では考えていきます。
介護現場にITを受け入れる余裕はあるのか?
新しい人や物を受け入れる余裕が無い
ITはもちろんのこと、それが人であっても新しいものを迎え入れる余裕すら無いのが実際ではないでしょうか。
ITを活用していくとした場合、まず現場は活かしきるだけの理解や知識を準備できていないのではないかと思います。
これが仮に、私たちが何も言わなくても、こちらが手伝って欲しいことをイメージ通りに全部動いてやってくれるようなロボットだったら話は別ですが、いきなりそんなレベルの代物は無いでしょう。
結局は自分たちでこれまで通りの方法を取ってしまう
しかし、実際のところは、私たちが行っている仕事の一部をコンピューターや機械に任せてみて、それらができないようなら自分たちでする。
感覚としては新人スタッフに仕事を教えるような関係からスタートするのではないでしょうか。
さて、ITという新人スタッフをあなたの職場は活かしてあげられますか?
介護業界はITリテラシーが低い
ITに対する理解は乏しい
そんなITという新入スタッフは、ポテンシャルはありますが異端すぎるので理解しきれないスタッフが居るかもしれません。
あるいは拒絶するスタッフが居るかもしれません。
「ITを取り入れている暇なんて無い」
「介護は人がやる仕事だからITなんて使っても上手くいかない」
「ITなんて難しいから手でやったほうが早いし正確」
まず例え話をしましたが、これはリテラシーが無いということです。
ITリテラシーとは?
ITリテラシーとは簡単に言うと、通信・ネットワーク・セキュリティなどITに関係する要素を理解する能力、あるいは操作する能力という意味です。
PCやスマートホンを使用するというのもITリテラシーと言えます。
そう考えると個人のレベルでは、ITリテラシーを備えておられる方は大勢いらっしゃると思います。介護業界で働く全ての人がITに弱いという訳ではありません。
しかし、業界全体としてはどうでしょうか。個人のリテラシーに比べると、業界としてのリテラシーは物足りないようにも思います。
次に挙げる紙媒体の存在が分かり易い事例になると思います。
介護現場はまだまだITを活用しきれていない
書類を紙で管理している事業所が多く存在
完全に全部手書きという所は殆ど無いかもしれませんが、介護業界では手書きの記録や書式は多く残っています。
システムなどの活用でペーパーレスに取り組んでいる事業所はありますが、全国の事業所に及ぶまではまだ時間がかかりそうです。
片方の事業所はデジタル、もう一方の事業所はアナログ
そして互換性の問題があります。
自分の事業所でシステム等を導入して手書きを減らしたとしても、関係機関の導入が遅れていて手書きで対応しないといけないという状況が起きます。
デジタルとアナログが混在すると、結局はアナログにしないといけないのです。
両方デジタルだが、システムがリンクしない
デジタル化されているはずなのに紙媒体も存在…
自分の事業所も関係機関も手書きは殆どないが、使用しているシステムやツールが違うので、必要によってデータは作り直さないといけない。という場合も有り得ます。
例えば、ヘルパー事業所がシステムを導入し介護保険請求にも活用する場合。ここでは利用実績が入力された状態の提供票という帳票を作成→出力します。
そして郵送やFAXあるいは手渡しでケアマネジャーへ提供表が渡ります。
現状としては、ケアマネジャーと書類をやり取りする場合は、紙媒体がまだまだ主流です。
その後ケアマネジャーは、受け取った提供票の情報を手動で入力し直します。
ここまでどうでしょう?「もう一度入力するのなら、紙で出力せずにどうにかならないか?」と思う方もいるのではないでしょうか?
その方が無駄が省け、ヘルパー側もケアマネ側も業務が減ります。
使用システムの互換性が無い
しかし、このようになる理由として互換性の問題があります。
ケアマネジャーはケアプラン作成や介護保険請求のソフトを持っている場合が多いのですが、一方でヘルパーやデイサービスなど他サービス事業所のシステムソフトは別の製品であることが大半でリンクしていないのです。
自社開発のシステムを作っているところも見かけますし、システムを作る企業も多社で競合しているので、セキュリティーや著作権、そもそもの仕様などリンクさせられないのだと思います。
大人の事情は含みますが、何とか無駄の無いように各社で調整してもらいたいものです。
記録様式やフォーマットが不統一
事業所によって記録の書き方はバラバラ
データなどのフォーマットが統一されていません。
簡単な例えで言うと、ある書類には「ご飯」と書かれ、別の書類には「ライス」と書かれているようなものです。そして、大学ノートに書いているところもあれば、白紙に書いているところある。
要するに、書き方も、書く場所もバラバラということです。
行政の書式もバラバラ
これは行政にも言えることで、市町村で書類のフォーマットはバラバラだったりします。
先述したように、そもそも手書きでデータですら無い場合が多々あります。
商用開発と自社開発が混在
また、先程のヘルパーとケアマネジャー事業所で挙げた例のように、デジタル化やペーパーレス化を進めている企業であっても商用のものから自社開発のものまでツールは様々です。
長期的に見てもマイナスの影響
また、記録やケアプランの記述方法も標準化されていない為、集計や分析をする際に余計な手間が生ずる恐れもあります。
過去のブログ記事で、ケアプランへのAI導入について書きましたが、AIの活躍はデータがあってこそです。
AIでケアプランを作成できるようになる為には、AIが精度の高いパフォーマンスを発揮できるようデータベースの完成がなされている必要があります。しかし、その肝心のデータが不統一な様式によって整理に時間がかかっている状況である。まだデータにすら変わっていない記録もあるということです。
介護業界に導入できるようなAIが開発されたとしても、データが散らかっていたAIが正しい答えを出せない。導入できない。
そんな状況になりかねません。
介護現場がIT導入への課題を乗り越えるために
ITと言えば、期待を膨らませるとロボットやAIなどなど近未来的なイメージが浮かびますが、もっと足元を見ないといけないのかもしれません。
国家的に後押しする土壌は出来つつある
厚生労働省は2019年4月に「介護分野のICT化、業務効率化の推進について」という会合を開き、課題を検討するなど国としての動きも見られます。今後もIT活用に世の中の関心は向くでしょう。
介護現場に存在する非効率業務への対処
しかし、現状は手作業で行っている、あるいは非効率な作業を行っているという事例が介護業界には多く残っています。
そして、意外と課題は根強く、きっちりと取り組まないと何年先になっても技術が導入できないという状況になりかねません。そうならない為にも、理解を進め活用の土台を作ることが大切でしょう。
まずは事業所単位で新しいものを受容すること
事業所として現在できる最善の手立てを取ることが、将来的に役立つはずです。
新しいものを受け入れ、活用していくことが求められます。
ポテンシャルや可能性があるものを活かしていくことが長期的には私たちの利益になります。